大学教養第 1 章約 6 分

ベクトルによる運動の記述

高校物理で「一定」に限られていた速度・加速度を、微分によって任意の運動へ拡張する。極座標での速度・加速度を導き、円運動の向心加速度が計算から自然に現れることを確かめる。

この章の到達目標

  • 位置ベクトルの微分として速度・加速度を定義できる
  • 等加速度運動の3公式を、積分によって導出できる
  • 極座標基底 e_r, e_θ の時間微分を計算できる
  • 極座標での加速度の4項が、それぞれ何を表すかを説明できる

前提平面内の運動と放物運動極限と微分

目次
  1. 微分としての速度・加速度
  2. 積分による3公式の再導出
  3. 極座標での運動
  4. 基底の微分
  5. 速度
  6. 加速度
  7. 章末問題

高校物理では、等加速度運動の3公式を vv-tt グラフの傾きと面積から導きました。 そこには「加速度が一定でなければ使えない」という制限がありました。

微分積分を使うと、この制限が外れます。 本章の目的は新しい物理を導入することではなく、同じ物理をより強い言語で書き直すことです。

微分としての速度・加速度

位置ベクトルを r⃗(t)\vec{r}(t) とします。時刻 tt から t+Δtt + \Delta t の間の平均速度は

r⃗(t+Δt)−r⃗(t)Δt\frac{\vec{r}(t + \Delta t) - \vec{r}(t)}{\Delta t}

でした。Δt→0\Delta t \to 0 の極限をとったものが速度です。

v⃗=dr⃗dt,a⃗=dv⃗dt=d2r⃗dt2\vec{v} = \deriv{\vec{r}}{t}, \qquad \vec{a} = \deriv{\vec{v}}{t} = \frac{\dd^2\vec{r}}{\dd t^2}
速度と加速度の定義

デカルト座標であれば、基底ベクトル e⃗x, e⃗y, e⃗z\vec{e}_x,\ \vec{e}_y,\ \vec{e}_z が時間によらないので、 成分ごとに微分するだけで済みます。

v⃗=(x˙, y˙, z˙),a⃗=(x¨, y¨, z¨)\vec{v} = (\dot{x},\, \dot{y},\, \dot{z}), \qquad \vec{a} = (\ddot{x},\, \ddot{y},\, \ddot{z})

ここで x˙\dot{x} は dx/dt\dd x/\dd t を表すニュートンの記法です。

積分による3公式の再導出

加速度 a⃗\vec{a} が一定の場合を、定義から積分してみます。

dv⃗/dt=a⃗\dd\vec{v}/\dd t = \vec{a} の両辺を 00 から tt まで積分すると

v⃗(t)−v⃗(0)=∫0ta⃗ dt′=a⃗t\vec{v}(t) - \vec{v}(0) = \int_0^t \vec{a}\,\dd t' = \vec{a}t ∴v⃗=v⃗0+a⃗t\therefore\quad \vec{v} = \vec{v}_0 + \vec{a}t

これが公式①です。さらに dr⃗/dt=v⃗\dd\vec{r}/\dd t = \vec{v} を積分して

r⃗(t)−r⃗(0)=∫0t(v⃗0+a⃗t′) dt′=v⃗0t+12a⃗t2\vec{r}(t) - \vec{r}(0) = \int_0^t (\vec{v}_0 + \vec{a}t')\,\dd t' = \vec{v}_0 t + \frac{1}{2}\vec{a}t^2
r⃗=r⃗0+v⃗0t+12a⃗t2\vec{r} = \vec{r}_0 + \vec{v}_0 t + \frac{1}{2}\vec{a}t^2
等加速度運動(ベクトル形)

公式③は、v⃗⋅v⃗\vec{v}\cdot\vec{v} の微分から出ます。

ddt(v⃗⋅v⃗)=2v⃗⋅dv⃗dt=2v⃗⋅a⃗\deriv{}{t}(\vec{v}\cdot\vec{v}) = 2\vec{v}\cdot\deriv{\vec{v}}{t} = 2\vec{v}\cdot\vec{a}

a⃗\vec{a} が一定なら右辺は 2a⃗⋅(dr⃗/dt)2\vec{a}\cdot(\dd\vec{r}/\dd t) なので、両辺を時間積分して

v2−v02=2 a⃗⋅Δr⃗v^2 - v_0^2 = 2\,\vec{a}\cdot\Delta\vec{r}

極座標での運動

平面上の運動を、原点からの距離 rr と角 θ\theta で表します。 基底ベクトルは、動径方向 e⃗r\vec{e}_r と、それに垂直な方向 e⃗θ\vec{e}_\theta にとります。

e⃗r=(cos⁡θ, sin⁡θ),e⃗θ=(−sin⁡θ, cos⁡θ)\vec{e}_r = (\cos\theta,\ \sin\theta), \qquad \vec{e}_\theta = (-\sin\theta,\ \cos\theta)

位置ベクトルは単純に r⃗=r e⃗r\vec{r} = r\,\vec{e}_r と書けます。 しかし θ\theta が時間変化すると、基底自身が回転します。

基底の微分

合成関数の微分より

de⃗rdt=θ˙ e⃗θ,de⃗θdt=−θ˙ e⃗r\deriv{\vec{e}_r}{t} = \dot{\theta}\,\vec{e}_\theta, \qquad \deriv{\vec{e}_\theta}{t} = -\dot{\theta}\,\vec{e}_r
極座標基底の時間微分

実際、de⃗r/dt=(−sin⁡θ, cos⁡θ) θ˙=θ˙ e⃗θ\dd\vec{e}_r/\dd t = (-\sin\theta,\ \cos\theta)\,\dot{\theta} = \dot{\theta}\,\vec{e}_\theta です。 微分すると 90° 回った向きになる、と覚えると見通しがよくなります。

速度

r⃗=re⃗r\vec{r} = r\vec{e}_r を積の微分で計算します。

v⃗=r˙ e⃗r+r de⃗rdt\vec{v} = \dot{r}\,\vec{e}_r + r\,\deriv{\vec{e}_r}{t}
v⃗=r˙ e⃗r+rθ˙ e⃗θ\vec{v} = \dot{r}\,\vec{e}_r + r\dot{\theta}\,\vec{e}_\theta
極座標での速度

第1項は原点から遠ざかる速さ、第2項は回転による速さです。 円運動なら r˙=0\dot{r} = 0 なので v=rθ˙=rωv = r\dot{\theta} = r\omega となり、高校で習った式に一致します。

加速度

もう一度微分します。

a⃗=r¨ e⃗r+r˙θ˙ e⃗θ+(r˙θ˙+rθ¨) e⃗θ+rθ˙(−θ˙ e⃗r)\vec{a} = \ddot{r}\,\vec{e}_r + \dot{r}\dot{\theta}\,\vec{e}_\theta + (\dot{r}\dot{\theta} + r\ddot{\theta})\,\vec{e}_\theta + r\dot{\theta}(-\dot{\theta}\,\vec{e}_r)

整理して

a⃗=(r¨−rθ˙2)e⃗r+(rθ¨+2r˙θ˙)e⃗θ\vec{a} = \bigl(\ddot{r} - r\dot{\theta}^2\bigr)\vec{e}_r + \bigl(r\ddot{\theta} + 2\dot{r}\dot{\theta}\bigr)\vec{e}_\theta
極座標での加速度

4つの項には、それぞれ名前がついています。

項向き意味
r¨\ddot{r}動径動径方向の加速
−rθ˙2-r\dot{\theta}^2動径向心加速度(回転にともなう内向き)
rθ¨r\ddot{\theta}方位角角加速度による接線加速
2r˙θ˙2\dot{r}\dot{\theta}方位角コリオリ項

章末問題

問 1基本微分による記述

平面上を運動する質点の位置が r⃗(t)=(bt, c−12gt2)\vec{r}(t) = (b t,\ c - \tfrac{1}{2}g t^2)(b, c, gb,\ c,\ g は正の定数)で与えられている。

(1) 速度 v⃗(t)\vec{v}(t) と加速度 a⃗(t)\vec{a}(t) を求めよ。 (2) この運動が何であるか答えよ。

解答を見る

(1) 成分ごとに微分します(デカルト座標なので基底は動きません)。

v⃗=dr⃗dt=(b, −gt)\vec{v} = \deriv{\vec{r}}{t} = (b,\ -gt)a⃗=dv⃗dt=(0, −g)\vec{a} = \deriv{\vec{v}}{t} = (0,\ -g)

(2) 加速度が yy 負向きに一定の大きさ gg、xx 方向は速度 bb で一定。 これは高さ cc から水平に初速 bb で投げ出した水平投射(放物運動)です。

t=x/bt = x/b を yy に代入すると y=c−g2b2x2y = c - \dfrac{g}{2b^2}x^2 となり、軌道が放物線であることも確認できます。

問 2標準極座標

質点が r(t)=Rr(t) = R(一定)、θ(t)=12αt2\theta(t) = \tfrac{1}{2}\alpha t^2(α\alpha は正の定数)にしたがって運動している。

(1) 速度と加速度を極座標成分で表せ。 (2) 時刻 tt における加速度の大きさを求めよ。

解答を見る

r˙=0, r¨=0\dot{r} = 0,\ \ddot{r} = 0、θ˙=αt, θ¨=α\dot{\theta} = \alpha t,\ \ddot{\theta} = \alpha です。

(1) 速度は

v⃗=0⋅e⃗r+Rαt e⃗θ=Rαt e⃗θ\vec{v} = 0\cdot\vec{e}_r + R\alpha t\,\vec{e}_\theta = R\alpha t\,\vec{e}_\theta

加速度は、公式に代入して

a⃗=(0−Rα2t2) e⃗r+(Rα+0) e⃗θ=−Rα2t2 e⃗r+Rα e⃗θ\vec{a} = (0 - R\alpha^2t^2)\,\vec{e}_r + (R\alpha + 0)\,\vec{e}_\theta = -R\alpha^2t^2\,\vec{e}_r + R\alpha\,\vec{e}_\theta

(2) 2成分は直交しているので

∣a⃗∣=(Rα2t2)2+(Rα)2=Rαα2t4+1|\vec{a}| = \sqrt{(R\alpha^2t^2)^2 + (R\alpha)^2} = R\alpha\sqrt{\alpha^2t^4 + 1}

これは等角加速度の円運動です。接線方向の加速度 RαR\alpha は一定ですが、 向心成分は速さが増すにつれて t2t^2 で大きくなり、加速度の大きさは増加し続けます。

問 3発展面積速度

中心力(常に原点を向く力)だけを受けて運動する質点を考える。 このとき方位角方向の加速度成分は 00 である。

(1) rθ¨+2r˙θ˙=0r\ddot{\theta} + 2\dot{r}\dot{\theta} = 0 から、r2θ˙r^2\dot{\theta} が時間によらず一定であることを示せ。 (2) この結果がケプラーの第2法則(面積速度一定)にあたることを説明せよ。

解答を見る

(1) 与式の両辺に rr を掛けます。

r2θ¨+2rr˙θ˙=0r^2\ddot{\theta} + 2r\dot{r}\dot{\theta} = 0

ここで左辺が、ある量の時間微分になっていることに気づきます。

ddt(r2θ˙)=2rr˙θ˙+r2θ¨\deriv{}{t}\bigl(r^2\dot{\theta}\bigr) = 2r\dot{r}\dot{\theta} + r^2\ddot{\theta}

これは与式の左辺そのものなので

ddt(r2θ˙)=0⟹r2θ˙=一定\deriv{}{t}\bigl(r^2\dot{\theta}\bigr) = 0 \quad\Longrightarrow\quad r^2\dot{\theta} = \text{一定}

(2) 微小時間 dt\dd t に動径が掃く面積は、底辺 rdθr\dd\theta、高さ rr の三角形とみなせて

dS=12r2 dθ\dd S = \frac{1}{2}r^2\,\dd\theta

よって面積速度は

dSdt=12r2θ˙\deriv{S}{t} = \frac{1}{2}r^2\dot{\theta}

(1) よりこれは一定。すなわち面積速度一定——ケプラーの第2法則です。

なお r2θ˙r^2\dot{\theta} は単位質量あたりの角運動量にほかならず、 この結果は「中心力のもとでは角運動量が保存する」という、より一般的な言明の一例です。 中心力であること(力が動径方向のみ)だけが効いており、 力の大きさが距離にどう依存するかは一切使っていない点に注意してください。 だから逆2乗則の重力に限らず、あらゆる中心力で成り立ちます。

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