物理の最初の仕事は、目に見える運動を数値で言い表せる形に翻訳することです。
「速かった」「だんだん遅くなった」という言い方では、二人の観測を突き合わせられません。
この章では、運動を記述するための4つの量を順に導入します。
位置と変位
直線上の運動を考えるとき、まず基準点(原点)と正の向きを決めます。
これを決めない限り「右に 3 m」は意味を持ちません。
物体の位置 x は、原点からの符号つきの距離です。
時刻 t1 に x1、時刻 t2 に x2 にいたとき、その間の変位は
変位の定義
で定義されます。Δ(デルタ)は「変化量」を表す記号で、必ず (後)−(前) の順で引きます。
速度と速さ
平均の速度
変位を、それにかかった時間で割った量が平均の速度です。
平均の速度
変位が符号つきなので、速度も符号つきです。負の速度は「負の向きに動いている」ことを表します。
これに対し速さは速度の絶対値 ∣v∣ で、向きの情報を捨てた量です。
瞬間の速度
平均の速度は、区間の取り方によって値が変わります。
Δt をどんどん短くしていったときに近づく値を、その時刻の瞬間の速度と呼びます。
x-t グラフで言えば、平均の速度は2点を結ぶ直線の傾き、
瞬間の速度はその点における接線の傾きです。
以降、単に「速度」と言えば瞬間の速度を指します。
加速度
速度が時間とともに変わるとき、その変化の速さを加速度と呼びます。
平均の加速度
単位は (m/s)/s=m/s2 です。
ここで符号の扱いに注意が必要です。
加速度が負であることと、減速していることは同じではありません。
等加速度直線運動
加速度が一定の直線運動を等加速度直線運動といいます。
自由落下や斜面を滑る物体がこれにあたり、高校物理で最も頻繁に登場する運動です。
時刻 t=0 での速度を v0(初速度)、位置を x=0 とし、加速度を a とします。
v-t グラフから3公式を導く
等加速度直線運動の v-t グラフは直線になります。
図 1等加速度直線運動の v-t グラフ。傾きが加速度 a、色をつけた台形の面積が変位 x にあたる。
傾きが加速度なので、時刻 t での速度は初速度 v0 に at を足したものです。
等加速度直線運動の公式①
面積が変位です。図の台形は「上底 v0、下底 v、高さ t」なので、
x=21(v0+v)t
これに公式①を代入して v を消すと、
等加速度直線運動の公式②
さらに、公式①を t=(v−v0)/a と解いて台形の式に代入すると、t を含まない関係が得られます。
等加速度直線運動の公式③
章末問題
問 1基本変位と道のり
数直線上を動く物体が、原点を出発して x=+8.0m まで進み、
そこから引き返して x=−2.0m で止まった。
この間の変位と道のりをそれぞれ求めよ。
解答を見る
変位は始点と終点だけで決まるので
Δx=(−2.0)−0=−2.0m道のりは実際に動いた長さの合計で
8.0+10.0=18m変位 −2.0m、道のり 18m。
引き返す運動では、変位の大きさと道のりは一致しません。
問 2標準等加速度直線運動
初速度 10m/s で正の向きに走っていた自動車が、
一定の加速度 −2.0m/s2 で減速し始めた。
(1) 停止するまでにかかる時間を求めよ。
(2) 停止するまでに進む距離を求めよ。
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(1) 停止とは v=0 になること。公式① v=v0+at より
0=10+(−2.0)t⟹t=5.0s(2) 時間が (1) で求まっているので公式②でもよいのですが、
ここでは時間を使わない公式③を使ってみます。
v2−v02=2ax⟹0−102=2×(−2.0)×xx=−4.0−100=25m答: (1) 5.0s、(2) 25m。
なお (2) は「v-t グラフの三角形の面積」と見ても
21×5.0×10=25m とすぐ出ます。
問 3発展符号の扱い
小球を地面から真上に初速度 19.6m/s で投げ上げた。
鉛直上向きを正とし、重力加速度の大きさを 9.8m/s2 とする。
(1) 最高点に達する時刻と、そのときの高さを求めよ。
(2) 投げ上げてから 3.0s 後の速度と位置を求め、
そのとき小球が上昇中か下降中かを答えよ。
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上向きを正としたので、加速度は a=−9.8m/s2(下向き)で運動の間ずっと一定です。
(1) 最高点では速度が 0 になります。公式①より
0=19.6+(−9.8)t⟹t=2.0s高さは公式③が速い。
0−19.62=2×(−9.8)×x⟹x=−19.6−384.16=19.6m(2) 公式①より
v=19.6+(−9.8)(3.0)=−9.8m/s公式②より
x=19.6×3.0+21(−9.8)(3.0)2=58.8−44.1=14.7m速度が負なので下降中。位置は正なのでまだ地面より上(高さ 14.7m)にいます。
答: (1) 2.0s、19.6m (2) 速度 −9.8m/s、位置 14.7m、下降中。
この問題の要点は、上昇・下降・最高点を場合分けせず、1つの式で通せることです。
上向きを正と決めたら、加速度は最初から最後まで −9.8m/s2。
「上昇中は…、下降中は…」と分けて考える必要はありません。