計算第 1 章約 8 分図 5 点

概数と暗算の技術

数を「1〜2桁の数 × 10のべき」に割って扱い、掛け算・割り算・百分率を暗算で片づける。電卓は桁を間違えても教えてくれないので、先に桁を決めておく習慣が本当の目的。

この章の到達目標

  • 数を仮数と10のべきに分けて、掛け算・割り算の答えの桁を暗算で決められる
  • 分配法則と和と差の積を使って、2桁どうしの掛け算を暗算できる
  • 2の10乗がほぼ1000であることなどの目印を、自分で導き直して使える
  • 「%」と「%ポイント」を区別し、増減の積み重ねを正しく計算できる
  • 72の法則で、一定の割合で増えるものが2倍になるまでの時間を見積もれる
目次
  1. 数を「仮数」と「桁」に分ける
  2. 割り算は「掛けていくつか」に直す
  3. 2桁の掛け算を暗算する
  4. 分配法則で「丸い数」に寄せる
  5. 和と差の積
  6. 目印になる数を自分で導く
  7. 2の10乗はほぼ1000
  8. 1年はおよそ 3×1073 \times 10^{7}3×107 秒
  9. 10\sqrt{10}10​ はおよそ 333
  10. 割合と百分率
  11. 増減は掛け算で重ねる
  12. 72の法則
  13. 電卓の答えを疑う
  14. 章末問題

この章の目的は、暗算が速くなることそのものではありません。 電卓を叩く前に、答えがおよそいくつになるかを知っておくことです。

電卓は、0 を1つ多く押しても、小数点を打ち間違えても、黙って間違った答えを出します。 先に「だいたい 200200 くらい」と分かっていれば、電卓が 20002000 と出した瞬間に気づけます。 この章の技術は、次の章のフェルミ推定、その次の現象の見積もりの土台になります。

数を「仮数」と「桁」に分ける

どんな数も、1〜10 の数と 10 のべきの積に書けます。

32000=3.2×104,0.006=6×10−332000 = 3.2 \times 10^{4}, \qquad 0.006 = 6 \times 10^{-3}

前半を仮数、後半を桁と呼ぶことにします。 掛け算・割り算では、この2つを別々に計算できます。

32000×0.006=(3.2×6)×104+(−3)=19.2×10=19232000 \times 0.006 = (3.2 \times 6) \times 10^{4 + (-3)} = 19.2 \times 10 = 192

仮数の計算は 3.2×6≈193.2 \times 6 \approx 19 と1〜2桁で済み、桁の計算は指数の足し算だけです。 難しい計算を、易しい計算2つに分けたことになります。

数32000×0.006=192仮数桁3.2×6=19.210⁴×10⁻³=10¹仮数は 1〜2 桁の掛け算、桁は指数の足し算 4 + (−3) = 1 だけ
図 132000 × 0.006 を「仮数」と「桁」の2本の計算に分けたところ。上の段は 3.2 × 6 ≈ 19 という易しい掛け算、下の段は指数の足し算だけになる。

割り算は「掛けていくつか」に直す

割り算は掛け算より暗算しにくいので、よく使う逆数を目印として持っておくと便利です。 これも覚えるものではなく、一度自分で割って確かめておけば十分です。

割る数逆数使い方
330.333…0.333\ldots「3で割る」は「0.330.33 を掛ける」
660.1670.1671/31/3 の半分
770.1430.1437×0.143=1.0017 \times 0.143 = 1.001 で確かめられる
880.1250.1251/21/2 を3回
990.111…0.111\ldots

2桁の掛け算を暗算する

分配法則で「丸い数」に寄せる

98×3798 \times 37 は、9898 を 100−2100 - 2 と見ると一気に易しくなります。

98×37=(100−2)×37=3700−74=362698 \times 37 = (100 - 2) \times 37 = 3700 - 74 = 3626

48×2548 \times 25 なら、25×4=10025 \times 4 = 100 を使います。

48×25=12×4×25=12×100=120048 \times 25 = 12 \times 4 \times 25 = 12 \times 100 = 1200

和と差の積

2つの数が「ある数から同じだけ離れている」ときは、和と差の積が使えます。

(a+b)(a−b)=a2−b2(a + b)(a - b) = a^{2} - b^{2}

たとえば 47×5347 \times 53 は、どちらも 5050 から 33 だけ離れているので

47×53=(50−3)(50+3)=2500−9=249147 \times 53 = (50 - 3)(50 + 3) = 2500 - 9 = 2491
b²aaba² − b²(色の部分)切って移すa + ba − b(a + b)(a − b)
図 2和と差の積を面積で見る。一辺 a の正方形から角の b² を除いた残り(左)を、細長い部分を切って右へ移すと、縦 a − b・横 a + b の長方形(右)になる。47 × 53 は a = 50、b = 3 の場合。

目印になる数を自分で導く

見積もりでよく使う数を、導き方ごと持っておきます。導き方を知っていれば、忘れても復元できます。

2の10乗はほぼ1000

210=1024≈1032^{10} = 1024 \approx 10^{3}

これだけで、2のべきが桁に直せます。 たとえば 220=(210)2≈1062^{20} = (2^{10})^{2} \approx 10^{6}(約100万)、230≈1092^{30} \approx 10^{9}(約10億)。 コンピュータの容量で「キロ・メガ・ギガ」がほぼ 2102^{10} 刻みなのはこのためです。

両辺の常用対数をとると、もう1つ目印が手に入ります。

10log⁡102≈3⟹log⁡102≈0.3010 \log_{10} 2 \approx 3 \quad\Longrightarrow\quad \log_{10} 2 \approx 0.30

1年はおよそ 3×1073 \times 10^{7} 秒

1 年=365×24×3600 s=365×86400 s=31 536 000 s≈3.2×107 s1\ \text{年} = 365 \times 24 \times 3600\unit{s} = 365 \times 86400\unit{s} = 31\,536\,000\unit{s} \approx 3.2 \times 10^{7}\unit{s}

1日は 86400 s≈105 s86400\unit{s} \approx 10^{5}\unit{s} と丸めておくと、秒と日の換算がすぐにできます。

10⁰10¹10²10³10⁴10⁵10⁶10⁷10⁸10⁹10¹⁰1秒1分1時間1日1年80年時間(秒)2のべき2¹⁰ = 10242²⁰ ≈ 10⁶2³⁰ ≈ 10⁹
図 3桁のものさし(対数目盛り)。1目盛りごとに10倍になる。1日はほぼ 10⁵ 秒、1年はほぼ 3 × 10⁷ 秒、一生はほぼ 10⁹ 秒台。下の段の 2 のべきは、10 乗ごとにちょうど 10³ ずつ進む。

10\sqrt{10} はおよそ 33

3.162≈103.16^{2} \approx 10 なので、10≈3.16\sqrt{10} \approx 3.16。 「1010 の半分の桁」、たとえば 1000=1010≈32\sqrt{1000} = 10\sqrt{10} \approx 32 がすぐ出ます。 次の章で使う「桁の真ん中を取る」操作は、この平方根を使います。

割合と百分率

増減は掛け算で重ねる

「20% 増えたあと 20% 減った」は元に戻りません。

1.2×0.8=0.961.2 \times 0.8 = 0.96

4% 減っています。割合の増減は足し算ではなく掛け算で重なるからです。

100元12020% 増96さらに 20% 減× 1.2× 0.8元の高さ
図 420% 増やしてから 20% 減らすと 96 になり、元の 100 に戻らない。減らすときの 20% は、増えたあとの 120 の 20%(= 24)だから。

ただし、増減が小さいときは足し算で近似できます。

(1+a)(1+b)=1+a+b+ab≈1+a+b(a,b が小さいとき)(1 + a)(1 + b) = 1 + a + b + ab \approx 1 + a + b \qquad (a, b \text{ が小さいとき})

abab は aa や bb よりずっと小さいので捨てられる、ということです。 3% 増と 2% 増なら約 5% 増(正確には 5.06%)。20% 増と 20% 減では ab=−0.04ab = -0.04 が無視できず、上の近似は使えません。

72の法則

年率 rr で増えるもの(複利の預金、成長する売上、物価など)が2倍になるまでの年数 nn は、 次の式で見積もれます。

n≈72r (%)n \approx \frac{72}{r\,(\%)}
72の法則

たとえば年 6% なら 72/6=1272 / 6 = 12 年で2倍。

導出。 2倍になる条件は (1+r)n=2(1 + r)^{n} = 2。両辺の自然対数をとると

nln⁡(1+r)=ln⁡2n \ln(1 + r) = \ln 2

rr が小さいとき ln⁡(1+r)≈r\ln(1 + r) \approx r なので

n≈ln⁡2r=0.693r=69.3r (%)n \approx \frac{\ln 2}{r} = \frac{0.693}{r} = \frac{69.3}{r\,(\%)}

本当は「69の法則」です。7272 を使うのは、実用的な rr(数 %)では ln⁡(1+r)\ln(1+r) が rr より少し小さい分をちょうど補うことと、 7272 が 2,3,4,6,8,9,122, 3, 4, 6, 8, 9, 12 で割り切れて暗算しやすいことの2つの理由からです。 年 6% の正確な値は ln⁡2/ln⁡1.06=11.9\ln 2 / \ln 1.06 = 11.9 年で、72の法則の 12 年とほぼ一致します。

1倍2倍4倍8倍061218243036年年 3%(2倍まで 24 年)年 6%(2倍まで 12 年)年 9%(2倍まで 8 年)
図 5年率 3%・6%・9% で増えるときの成長(縦軸は「2倍ごと」に等間隔)。点は2倍・4倍・8倍に達した時点で、間隔がほぼ 72 ÷ 年率 になっている。縦軸をこう取ると、一定の割合で増えるものは直線になる。

電卓の答えを疑う

概算の本当の使い道は検算です。電卓で計算する前に、仮数と桁だけで答えの見当をつけます。

章末問題

問 1基本2桁の掛け算

次の計算を暗算で行え。どの技を使ったかも書くこと。

(1) 25×3625 \times 36 (2) 99×4799 \times 47 (3) 62×5862 \times 58

解答を見る

(1) 25×4=10025 \times 4 = 100 を使います。36=9×436 = 9 \times 4 なので

25×36=25×4×9=100×9=90025 \times 36 = 25 \times 4 \times 9 = 100 \times 9 = 900

(2) 99=100−199 = 100 - 1 と見て分配法則。

99×47=4700−47=465399 \times 47 = 4700 - 47 = 4653

(3) どちらも 6060 から 22 離れているので、和と差の積。

62×58=(60+2)(60−2)=3600−4=359662 \times 58 = (60 + 2)(60 - 2) = 3600 - 4 = 3596

答: (1) 900 (2) 4653 (3) 3596

問 2標準桁の見積もり

(1) 80年の一生は約何秒か。有効数字2桁で答えよ。 (2) 心臓が1分間に平均70回拍動するとして、80年で何回拍動するか。桁が分かる形で答えよ。

解答を見る

(1) 1年 ≈3.15×107 s\approx 3.15 \times 10^{7}\unit{s} を使います。

80×3.15×107 s=252×107 s≈2.5×109 s80 \times 3.15 \times 10^{7}\unit{s} = 252 \times 10^{7}\unit{s} \approx 2.5 \times 10^{9}\unit{s}

答: 約 2.5×1092.5 \times 10^{9} 秒(25億秒)

(2) 1年は 365×24×60=525,600365 \times 24 \times 60 = 525{,}600 分 ≈5.3×105\approx 5.3 \times 10^{5} 分。

70×5.3×105×80=(70×80)×5.3×105=5600×5.3×105≈3.0×10970 \times 5.3 \times 10^{5} \times 80 = (70 \times 80) \times 5.3 \times 10^{5} = 5600 \times 5.3 \times 10^{5} \approx 3.0 \times 10^{9}

答: 約 3×1093 \times 10^{9} 回(30億回)

(1) の秒数と比べると、心臓は「ほぼ1秒に1回」なので、一生の秒数と拍動の回数が同じ桁になるのは自然です。 こうした別の見方での突き合わせが、概算の答えを信頼できるものにします。

問 3発展72の法則と2の10乗

年利 3% の複利で運用するとき、次の問いに答えよ。

(1) 元本が2倍になるのは約何年後か。72の法則で求めよ。 (2) 元本が約1000倍になるのは約何年後か。210≈10002^{10} \approx 1000 を使って求めよ。 (3) (1) を ln⁡2/ln⁡1.03\ln 2 / \ln 1.03 で正確に計算すると 23.423.4 年になる。これを使うと (2) は何年になるか。

解答を見る

(1) 72/3=2472 / 3 = 24。答: 約24年後

(2) 1000倍は 2102^{10} 倍、つまり「2倍になる」を10回くり返すことです。

24×10=240 年24 \times 10 = 240\ \text{年}

答: 約240年後

(3) 23.4×10=23423.4 \times 10 = 234 年。答: 約234年後

72の法則の誤差(2424 と 23.423.4)が10倍に拡大され、6年の差になりました。 それでも「数百年かかる」という桁の結論は変わりません。見積もりでは、 結論が変わらない範囲の誤差は気にしなくてよい、という判断も大切です。

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