計算第 2 章約 8 分図 5 点

フェルミ推定の型

見当もつかない量を、見積もれる量の掛け算に分解し、幅をもって推定する。幾何平均で「間を取る」理由と、別経路の検算で推定を信頼できるものにする方法を扱う。

この章の到達目標

  • 求めたい量を、それぞれ見積もれる量の積に分解できる
  • 各因子を下限と上限の幅で見積もり、幾何平均で代表値を出せる
  • 独立な2つの経路で推定し、結果を突き合わせて検算できる
  • 因子の数が増えても推定が大きく外れにくい理由を説明できる

前提概数と暗算の技術

目次
  1. 5つの手順
  2. 1. 分解する
  3. 2. 幅で見積もる
  4. 3. 間を取る:幾何平均
  5. 4. 掛ける
  6. 5. 別の経路で確かめる
  7. なぜ大きく外れにくいのか
  8. 章末問題

「日本中で1日にトイレで流す水は、どのくらいか」。 こう聞かれて、調べずに答えられる人はまずいません。しかし、桁が合った答えなら数分で出せます。

調べられない・測れない量を、知っている量の組み合わせから見積もる方法をフェルミ推定と呼びます。 物理学者エンリコ・フェルミが、学生にこの種の問題を好んで出したことに由来します。

目指すのは正確な値ではなく、10倍以上は外れない値です。 それでも「やる価値があるか」「桁違いの誤りがないか」を判断するには十分です。

5つの手順

以下、冒頭の問いでこの型を順に使います。

1. 分解する

「1日にトイレで流す水の量」は、次の3つの掛け算に分けられます。

水量=人数⏟日本の人口×1人あたりの回数⏟回/日×1回あたりの水量⏟L/回\text{水量} = \underbrace{\text{人数}}_{\text{日本の人口}} \times \underbrace{\text{1人あたりの回数}}_{\text{回/日}} \times \underbrace{\text{1回あたりの水量}}_{\text{L/回}}

分解がうまくいったかは、単位で確かめられます。 人×回/(人・日)×L/回=L/日\text{人} \times \text{回/(人・日)} \times \text{L/回} = \text{L/日} となり、求めたい量の単位と一致します。 単位が合わない分解は、どこかで因子を落としているか、余計な因子を入れています(次元解析の考え方です)。

1日にトイレで流す水約 5 × 10⁹ L人数1.2 × 10⁸ 人知っている数1人あたりの回数4〜8 → 6 回/日自分の1日から1回あたりの水量4〜13 → 7 L/回幾何平均××単位の確認: 人 × 回/(人・日) × L/回 = L/日
図 1見積もれない量を、見積もれる3つの量の掛け算に分解した木。各因子には「少なくとも〜多くても」の幅をつけ、代表値を1つ選んでから掛ける。

2. 幅で見積もる

因子下限上限考え方
人数——日本の人口は約 1.2×1081.2 \times 10^{8} 人。これは知っている数として使う
回数44 回/日88 回/日自分の1日を思い出す。小便が数回、大便が1回程度
水量44 L/回1313 L/回新しい節水型は数 L、古い便器は10 L を超える

1つの値で答えようとすると手が止まりますが、「少なくとも」「多くても」なら答えられます。 範囲で考えるのは、推定を始めるための道具です。

3. 間を取る:幾何平均

範囲が決まったら、代表値を1つ選びます。 水量の範囲 4∼134 \sim 13 L の「真ん中」として、算術平均 (4+13)/2=8.5(4 + 13)/2 = 8.5 ではなく、幾何平均を使います。

a×b\sqrt{a \times b}
幾何平均
4×13=52≈7.2 L\sqrt{4 \times 13} = \sqrt{52} \approx 7.2\ \text{L}
範囲 4〜13 L(1回あたりの水量)125102050100幾何平均 7.21算術平均 8.5範囲 10〜1000510205010020050010002000幾何平均 100算術平均 505
図 2対数目盛りの上で見た幾何平均と算術平均。幾何平均(丸)は両端から「比で」等距離にあり、算術平均(縦線)は上限側に寄る。範囲が広いほどその差は大きい。

回数の範囲 4∼84 \sim 8 回は幅が狭いので、幾何平均 32≈5.7\sqrt{32} \approx 5.7 でも算術平均 66 でもほとんど変わりません。ここでは 66 回とします。

4. 掛ける

1.2×108×6×7=50×108=5×109 L/日1.2 \times 10^{8} \times 6 \times 7 = 50 \times 10^{8} = 5 \times 10^{9}\ \text{L/日}

1日に約 5050 億 L、1 m3=10001\unit{m^3} = 1000 L なので 5×106 m35 \times 10^{6}\unit{m^3} です。 学校の 25 m プール(約 25×12×1.2≈360 m325 \times 12 \times 1.2 \approx 360\unit{m^3})に直すと、1日で約1万4千杯になります。

□ 1つ= プール 100 杯全部で 140 個= 約 1 万 4 千杯1 杯 ≈ 360 m³
図 3日本中で1日にトイレで流す水(約 5 × 10⁶ m³)を、学校の 25 m プール(約 360 m³)の数で表した図。小さな四角1つがプール 100 杯分。

5. 別の経路で確かめる

同じ量を、1人あたりの生活用水から出してみます。

  • 家庭で使う水は、1人1日あたりおよそ 200 L 余りとされています(国や水道局の資料。資料によって多少の差があります)
  • そのうちトイレに使う割合は、東京都水道局の調査で約2割とされています
200 L×0.2=40 L/(人・日)200\ \text{L} \times 0.2 = 40\ \text{L/(人・日)}

最初の経路では 6×7=426 \times 7 = 42 L/(人・日) でした。2つの経路がほぼ一致しています。

経路 1: 自分の生活から6 回/日 × 7 L/回経路 2: 統計資料から200 L/日 × トイレ約 2 割42 L40 L1人1日あたりのトイレの水独立な2つの経路がほぼ一致
図 4同じ量を、使う情報がまったく違う2つの経路で推定した結果。自分の記憶からの 42 L と、統計資料からの 40 L がほぼ一致した。

2つの経路は、使った情報が違います。 1つ目は自分の生活の記憶、2つ目は統計資料です。独立な情報から出した値が一致するほど、 どちらもたまたま外れているとは考えにくくなります。これが、推定を信頼できるものにします。

なぜ大きく外れにくいのか

因子が4つあって、どれも2倍くらい不確かなら、最悪 24=162^{4} = 16 倍外れます。 それでもフェルミ推定がふつう桁を外さないのは、誤差が打ち消し合うからです。

見積もりすぎる因子もあれば、見積もりが足りない因子もあります。 それぞれの誤差の向きがばらばらなら、全部が同じ向きにずれる「最悪の場合」はめったに起きません。 章末問題3で、このことを数えて確かめます。

1/16÷164/16÷46/16真の値4/16×41/16×16
図 5因子の数とずれの大きさを変えて、推定を何千回もくり返すシミュレーション。点線が「全因子が同じ向きにずれた最悪の場合」、色の帯が「f² 倍以内」。最悪の場合はほとんど起きず、推定値は真の値の近くに集まる。ずれの標準偏差が √k に比例することも、理論値と並べて確かめられる。

章末問題

問 1基本幾何平均

ある量が「少なくとも 2020、多くても 500500」と見積もられた。 (1) 算術平均と幾何平均を求めよ。 (2) 代表値としてどちらが適切か。比の考え方で説明せよ。

解答を見る

(1) 算術平均は (20+500)/2=260(20 + 500)/2 = 260。 幾何平均は 20×500=10000=100\sqrt{20 \times 500} = \sqrt{10000} = 100。

(2) 幾何平均の 100100 は、下限から 100/20=5100/20 = 5 倍、上限まで 500/100=5500/100 = 5 倍で、比の意味でちょうど真ん中です。 算術平均の 260260 は、下限から 1313 倍、上限まで約 1.91.9 倍で、上限に大きく寄っています。

「何倍ずれているか分からない」という不確かさのときは、幾何平均が適切です。

問 2標準分解と見積もり

人が一生のうちにトイレで過ごす時間を推定せよ。 小便を1日5回・1回1分、大便を1日1回・1回7分とし、一生を80年とする。答えは日数と、何か月にあたるかで示せ。

解答を見る

1日あたりの時間は

5×1+1×7=12 分/日5 \times 1 + 1 \times 7 = 12\ \text{分/日}

80年では

12×365×80=12×29200=350,400 分12 \times 365 \times 80 = 12 \times 29200 = 350{,}400\ \text{分}

日に直すと 350,400/(60×24)=350,400/1440≈243350{,}400 / (60 \times 24) = 350{,}400 / 1440 \approx 243 日。

答: 約240日、およそ8か月

暗算なら、1212 分は1日 14401440 分の 1/1201/120 なので、一生(80×365≈29,00080 \times 365 \approx 29{,}000 日)の 1/1201/120 で約 240240 日、と出せます。 こうした比で考える近道も、慣れると使えるようになります。

問 3発展誤差の打ち消し合い

4つの因子の積で推定を行う。各因子は、真の値の 2倍 か 1/2倍 のどちらかに、互いに独立に確率 1/21/2 ずつずれるものとする。

(1) 推定値が真の値の16倍または1/16倍になる確率を求めよ。 (2) 推定値が真の値にぴったり一致する確率を求めよ。 (3) 推定値が真の値から4倍以内(1/4倍以上4倍以下)に収まる確率を求めよ。

解答を見る

4つの因子のずれ方は、それぞれ「2倍」か「1/2倍」の2通りなので、全部で 24=162^{4} = 16 通りあり、どれも等しい確率 1/161/16 で起きます。

「2倍」にずれた因子の数を kk とすると、推定値は真の値の 2k×(1/2)4−k=22k−42^{k} \times (1/2)^{4-k} = 2^{2k-4} 倍です。

kk倍率場合の数
001/161/1611
111/41/444
221166
334444
44161611

場合の数は、4つの因子から「2倍」にずれるものを kk 個選ぶ組合せ 4Ck{}_4\mathrm{C}_k です。

(1) k=0k = 0 または 44 のとき。(1+1)/16=1/8(1 + 1)/16 = 1/8。答: 1/8(12.5%)

(2) k=2k = 2 のとき。6/16=3/86/16 = 3/8。答: 3/8(37.5%)

(3) k=1,2,3k = 1, 2, 3 のとき。(4+6+4)/16=14/16=7/8(4 + 6 + 4)/16 = 14/16 = 7/8。答: 7/8(87.5%)

各因子が2倍も外れうるのに、8回に7回は4倍以内に収まります。 最悪の16倍になるのは、全因子が同じ向きにずれたときだけです。 実際の推定では、ずれの大きさもばらばらなので、打ち消し合いはさらに効きます。

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