物理の式には必ず単位がついています。単位は「答えに添える飾り」ではなく、
式が正しいかどうかを判定する道具です。
この章で扱う次元解析は、物理を学ぶうえで最も費用対効果の高い技法です。
計算を終える前に誤りを見つけられるので、以降のすべての章で使えます。
SI基本単位と組立単位
国際単位系(SI)では、7つの基本単位から他のすべてを組み立てます。
物理でよく使うのは次の5つです。
| 量 | 単位 | 記号 |
|---|
| 長さ | メートル | m |
| 質量 | キログラム | kg |
| 時間 | 秒 | s |
| 電流 | アンペア | A |
| 熱力学温度 | ケルビン | K |
他の単位は、定義式から機械的に組み立てられます。覚える必要はありません。
- 速度 v=x/t なので m/s
- 加速度 a=v/t なので m/s2
- 力 F=ma なので kg⋅m/s2。これを 1N と呼ぶ
- 仕事 W=Fx なので N⋅m=kg⋅m2/s2。これが 1J
- 仕事率 P=W/t なので J/s。これが 1W
- 圧力 p=F/S なので N/m2。これが 1Pa
接頭語
| 接頭語 | 記号 | 倍率 |
|---|
| ギガ | G | 109 |
| メガ | M | 106 |
| キロ | k | 103 |
| センチ | c | 10−2 |
| ミリ | m | 10−3 |
| マイクロ | μ | 10−6 |
| ナノ | n | 10−9 |
次元
単位の種類だけを抜き出したものを次元と呼び、角括弧で書きます。
力学では質量 M、長さ L、時間 T の3つで足ります。
| 量 | 次元 |
|---|
| 長さ | L |
| 速度 | LT−1 |
| 加速度 | LT−2 |
| 力 | MLT−2 |
| エネルギー | ML2T−2 |
| 仕事率 | ML2T−3 |
角度・比・屈折率などは単位を持たず、無次元と言います。
規則
規則2が検算に使えます。
検算の例
等加速度運動の式 v=v0+at を調べます。
[v]=LT−1,[v0]=LT−1,[at]=(LT−2)(T)=LT−1
3つとも一致しているので、少なくとも次元的には正しいです。
では x=v0t+21at はどうでしょうか。
[v0t]=L,[at]=LT−1
一致しません。 第2項は 21at2 でなければならない、と
計算する前に分かります。
次元解析で式の形を推定する
次元解析は検算だけの道具ではありません。式の形そのものを推定できます。
例として、長さ l の糸におもりをつけた単振り子の周期 T を考えます。
T が関係しそうな量は、糸の長さ l、おもりの質量 m、重力加速度 g です。
T=Clαmβgγ
と仮定します(C は無次元の定数)。両辺の次元を書くと
T=LαMβ(LT−2)γ=MβLα+γT−2γ
左辺には M も L も現れないので、指数を比べて
β=0,α+γ=0,−2γ=1
これを解くと γ=−21、α=21、β=0。したがって
T=Cgl
有効数字
測定値には必ず精度の限界があります。
2.50m と書けば「2.495 から 2.505 の間」を意味し、有効数字は3桁です。
末尾の 0 は「そこまで測れた」ことを示すので、省いてはいけません。
掛け算・割り算
足し算・引き算
章末問題
問 1基本組立単位と次元
次の問いに答えよ。
(1) 万有引力定数 G は F=Gr2m1m2 で定義される。G の SI 単位を求めよ。
(2) G の次元を M,L,T で表せ。
解答を見る
(1) 定義式を G について解きます。
G=m1m2Fr2単位を代入して
[G]=kg2N⋅m2=N⋅m2/kg2基本単位に直すと N=kg⋅m/s2 なので
kg2(kg⋅m/s2)⋅m2=m3/(kg⋅s2)答: N⋅m2/kg2=m3kg−1s−2。
(2) 同じ操作を次元で行います。
[G]=M2(MLT−2)L2=M−1L3T−2
問 2標準次元による検算
ある学生が、質量 m のおもりがばね定数 k のばねで振動する周期を
次のように書いた。どれが次元的に誤りか、理由とともに答えよ。
(ア)T=2πkm(イ)T=2πmk(ウ)T=2πkm解答を見る
まず k の次元を求めます。ばねの力は F=kx なので k=F/x、
[k]=LMLT−2=MT−2(ア)
[km]=(MT−2M)1/2=(T2)1/2=T周期の次元 T と一致。正しい。
(イ) (ア) の逆数の平方根なので T−1。
これは周期ではなく振動数の次元です。誤り。
(ウ)
[km]=MT−2M=T2T2 であって T ではない。誤り(平方根を忘れている)。
答: (イ) と (ウ) が誤り。
(イ) のように逆数になっている誤りは、値を計算しただけでは気づきにくいものです。
次元を見れば即座に分かります。
問 3発展次元解析による推定
密度 ρ、表面張力 σ の液体でできた、半径 R の球状の液滴が振動する。
その振動の周期 T を次元解析で推定せよ。
なお表面張力 σ は「単位長さあたりの力」であり、[σ]=MT−2 である。
解答を見る
T=CρασβRγ と仮定します。
密度の次元は [ρ]=ML−3 です。
T=(ML−3)α(MT−2)βLγ=Mα+βL−3α+γT−2β各次元の指数を比べます。
M:α+β=0,L:−3α+γ=0,T:−2β=1第3式より β=−21。第1式より α=21。
第2式より γ=3α=23。したがって
T=CσρR3答: T∝ρR3/σ。
読み取れることを確認しておきます。
- 周期は R3/2 に比例する。 液滴が2倍の大きさになると周期は 23/2≈2.8 倍
- 表面張力が強いほど速く振動する(σ が分母)
- 重いほどゆっくり振動する(ρ が分子)
運動方程式を立てず、流体力学を何も使わずにここまで分かります。
実際の解析でも C は 1 前後の値になります。