数学第 1 章約 9 分

単位と次元・有効数字

単位を組み立てる規則と、式の正しさを単位だけで検算する「次元解析」を身につける。次元解析は物理で最も費用対効果の高い技法で、答えを出す前に誤りを見つけられる。

この章の到達目標

  • SI基本単位から、力・エネルギー・圧力などの組立単位を導ける
  • 式の両辺の次元が一致しているかを調べて、式の誤りを検出できる
  • 次元解析だけで、物理量の関係式の形をおおよそ推定できる
  • 掛け算・割り算と足し算・引き算で、有効数字の扱いが違う理由を説明できる
目次
  1. SI基本単位と組立単位
  2. 接頭語
  3. 次元
  4. 規則
  5. 検算の例
  6. 次元解析で式の形を推定する
  7. 有効数字
  8. 掛け算・割り算
  9. 足し算・引き算
  10. 章末問題

物理の式には必ず単位がついています。単位は「答えに添える飾り」ではなく、 式が正しいかどうかを判定する道具です。

この章で扱う次元解析は、物理を学ぶうえで最も費用対効果の高い技法です。 計算を終える前に誤りを見つけられるので、以降のすべての章で使えます。

SI基本単位と組立単位

国際単位系(SI)では、7つの基本単位から他のすべてを組み立てます。 物理でよく使うのは次の5つです。

量単位記号
長さメートルm\mathrm{m}
質量キログラムkg\mathrm{kg}
時間秒s\mathrm{s}
電流アンペアA\mathrm{A}
熱力学温度ケルビンK\mathrm{K}

他の単位は、定義式から機械的に組み立てられます。覚える必要はありません。

  • 速度 v=x/tv = x/t なので  m/s\unit{m/s}
  • 加速度 a=v/ta = v/t なので  m/s2\unit{m/s^2}
  • 力 F=maF = ma なので kg⋅m/s2\mathrm{kg\cdot m/s^2}。これを 1 N1\unit{N} と呼ぶ
  • 仕事 W=FxW = Fx なので N⋅m=kg⋅m2/s2\mathrm{N\cdot m} = \mathrm{kg\cdot m^2/s^2}。これが 1 J1\unit{J}
  • 仕事率 P=W/tP = W/t なので  J/s\unit{J/s}。これが 1 W1\unit{W}
  • 圧力 p=F/Sp = F/S なので N/m2\mathrm{N/m^2}。これが 1 Pa1\unit{Pa}

接頭語

接頭語記号倍率
ギガG\mathrm{G}10910^{9}
メガM\mathrm{M}10610^{6}
キロk\mathrm{k}10310^{3}
センチc\mathrm{c}10−210^{-2}
ミリm\mathrm{m}10−310^{-3}
マイクロμ\mathrm{\mu}10−610^{-6}
ナノn\mathrm{n}10−910^{-9}

次元

単位の種類だけを抜き出したものを次元と呼び、角括弧で書きます。 力学では質量 M\mathsf{M}、長さ L\mathsf{L}、時間 T\mathsf{T} の3つで足ります。

量次元
長さL\mathsf{L}
速度LT−1\mathsf{L}\mathsf{T}^{-1}
加速度LT−2\mathsf{L}\mathsf{T}^{-2}
力MLT−2\mathsf{M}\mathsf{L}\mathsf{T}^{-2}
エネルギーML2T−2\mathsf{M}\mathsf{L}^2\mathsf{T}^{-2}
仕事率ML2T−3\mathsf{M}\mathsf{L}^2\mathsf{T}^{-3}

角度・比・屈折率などは単位を持たず、無次元と言います。

規則

規則2が検算に使えます。

検算の例

等加速度運動の式 v=v0+atv = v_0 + at を調べます。

[v]=LT−1,[v0]=LT−1,[at]=(LT−2)(T)=LT−1[v] = \mathsf{L}\mathsf{T}^{-1}, \qquad [v_0] = \mathsf{L}\mathsf{T}^{-1}, \qquad [at] = (\mathsf{L}\mathsf{T}^{-2})(\mathsf{T}) = \mathsf{L}\mathsf{T}^{-1}

3つとも一致しているので、少なくとも次元的には正しいです。

では x=v0t+12atx = v_0 t + \frac{1}{2}at はどうでしょうか。

[v0t]=L,[at]=LT−1[v_0 t] = \mathsf{L}, \qquad [at] = \mathsf{L}\mathsf{T}^{-1}

一致しません。 第2項は 12at2\frac{1}{2}at^2 でなければならない、と 計算する前に分かります。

次元解析で式の形を推定する

次元解析は検算だけの道具ではありません。式の形そのものを推定できます。

例として、長さ ll の糸におもりをつけた単振り子の周期 TT を考えます。 TT が関係しそうな量は、糸の長さ ll、おもりの質量 mm、重力加速度 gg です。

T=C lαmβgγT = C\, l^{\alpha} m^{\beta} g^{\gamma}

と仮定します(CC は無次元の定数)。両辺の次元を書くと

T=Lα Mβ (LT−2)γ=Mβ Lα+γ T−2γ\mathsf{T} = \mathsf{L}^{\alpha}\,\mathsf{M}^{\beta}\,(\mathsf{L}\mathsf{T}^{-2})^{\gamma} = \mathsf{M}^{\beta}\,\mathsf{L}^{\alpha+\gamma}\,\mathsf{T}^{-2\gamma}

左辺には M\mathsf{M} も L\mathsf{L} も現れないので、指数を比べて

β=0,α+γ=0,−2γ=1\beta = 0, \qquad \alpha + \gamma = 0, \qquad -2\gamma = 1

これを解くと γ=−12\gamma = -\tfrac{1}{2}、α=12\alpha = \tfrac{1}{2}、β=0\beta = 0。したがって

T=ClgT = C\sqrt{\frac{l}{g}}

有効数字

測定値には必ず精度の限界があります。 2.50 m2.50\unit{m} と書けば「2.4952.495 から 2.5052.505 の間」を意味し、有効数字は3桁です。 末尾の 00 は「そこまで測れた」ことを示すので、省いてはいけません。

掛け算・割り算

足し算・引き算

章末問題

問 1基本組立単位と次元

次の問いに答えよ。

(1) 万有引力定数 GG は F=Gm1m2r2F = G\dfrac{m_1m_2}{r^2} で定義される。GG の SI 単位を求めよ。 (2) GG の次元を M,L,T\mathsf{M},\mathsf{L},\mathsf{T} で表せ。

解答を見る

(1) 定義式を GG について解きます。

G=Fr2m1m2G = \frac{Fr^2}{m_1m_2}

単位を代入して

[G]=N⋅m2kg2=N⋅m2/kg2[G] = \frac{\mathrm{N}\cdot\mathrm{m}^2}{\mathrm{kg}^2} = \mathrm{N\cdot m^2/kg^2}

基本単位に直すと N=kg⋅m/s2\mathrm{N} = \mathrm{kg\cdot m/s^2} なので

(kg⋅m/s2)⋅m2kg2=m3/(kg⋅s2)\frac{(\mathrm{kg\cdot m/s^2})\cdot\mathrm{m^2}}{\mathrm{kg^2}} = \mathrm{m^3/(kg\cdot s^2)}

答: N⋅m2/kg2=m3 kg−1 s−2\mathrm{N\cdot m^2/kg^2} = \mathrm{m^3\,kg^{-1}\,s^{-2}}。

(2) 同じ操作を次元で行います。

[G]=(MLT−2) L2M2=M−1L3T−2[G] = \frac{(\mathsf{M}\mathsf{L}\mathsf{T}^{-2})\,\mathsf{L}^2}{\mathsf{M}^2} = \mathsf{M}^{-1}\mathsf{L}^{3}\mathsf{T}^{-2}

問 2標準次元による検算

ある学生が、質量 mm のおもりがばね定数 kk のばねで振動する周期を 次のように書いた。どれが次元的に誤りか、理由とともに答えよ。

(ア)    T=2πmk(イ)    T=2πkm(ウ)    T=2πmk\text{(ア)}\;\; T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \qquad \text{(イ)}\;\; T = 2\pi\sqrt{\frac{k}{m}} \qquad \text{(ウ)}\;\; T = 2\pi\frac{m}{k}
解答を見る

まず kk の次元を求めます。ばねの力は F=kxF = kx なので k=F/xk = F/x、

[k]=MLT−2L=MT−2[k] = \frac{\mathsf{M}\mathsf{L}\mathsf{T}^{-2}}{\mathsf{L}} = \mathsf{M}\mathsf{T}^{-2}

(ア)

[mk]=(MMT−2)1/2=(T2)1/2=T\left[\sqrt{\frac{m}{k}}\right] = \left(\frac{\mathsf{M}}{\mathsf{M}\mathsf{T}^{-2}}\right)^{1/2} = (\mathsf{T}^{2})^{1/2} = \mathsf{T}

周期の次元 T\mathsf{T} と一致。正しい。

(イ) (ア) の逆数の平方根なので T−1\mathsf{T}^{-1}。 これは周期ではなく振動数の次元です。誤り。

(ウ)

[mk]=MMT−2=T2\left[\frac{m}{k}\right] = \frac{\mathsf{M}}{\mathsf{M}\mathsf{T}^{-2}} = \mathsf{T}^2

T2\mathsf{T}^2 であって T\mathsf{T} ではない。誤り(平方根を忘れている)。

答: (イ) と (ウ) が誤り。

(イ) のように逆数になっている誤りは、値を計算しただけでは気づきにくいものです。 次元を見れば即座に分かります。

問 3発展次元解析による推定

密度 ρ\rho、表面張力 σ\sigma の液体でできた、半径 RR の球状の液滴が振動する。 その振動の周期 TT を次元解析で推定せよ。

なお表面張力 σ\sigma は「単位長さあたりの力」であり、[σ]=MT−2[\sigma] = \mathsf{M}\mathsf{T}^{-2} である。

解答を見る

T=C ρασβRγT = C\,\rho^{\alpha}\sigma^{\beta}R^{\gamma} と仮定します。 密度の次元は [ρ]=ML−3[\rho] = \mathsf{M}\mathsf{L}^{-3} です。

T=(ML−3)α(MT−2)β Lγ=Mα+β  L−3α+γ  T−2β\mathsf{T} = (\mathsf{M}\mathsf{L}^{-3})^{\alpha}(\mathsf{M}\mathsf{T}^{-2})^{\beta}\,\mathsf{L}^{\gamma} = \mathsf{M}^{\alpha+\beta}\;\mathsf{L}^{-3\alpha+\gamma}\;\mathsf{T}^{-2\beta}

各次元の指数を比べます。

M:  α+β=0,L:  −3α+γ=0,T:  −2β=1\mathsf{M}:\; \alpha + \beta = 0, \qquad \mathsf{L}:\; -3\alpha + \gamma = 0, \qquad \mathsf{T}:\; -2\beta = 1

第3式より β=−12\beta = -\tfrac{1}{2}。第1式より α=12\alpha = \tfrac{1}{2}。 第2式より γ=3α=32\gamma = 3\alpha = \tfrac{3}{2}。したがって

T=CρR3σT = C\sqrt{\frac{\rho R^3}{\sigma}}

答: T∝ρR3/σT \propto \sqrt{\rho R^3/\sigma}。

読み取れることを確認しておきます。

  • 周期は R3/2R^{3/2} に比例する。 液滴が2倍の大きさになると周期は 23/2≈2.82^{3/2}\approx 2.8 倍
  • 表面張力が強いほど速く振動する(σ\sigma が分母)
  • 重いほどゆっくり振動する(ρ\rho が分子)

運動方程式を立てず、流体力学を何も使わずにここまで分かります。 実際の解析でも CC は 11 前後の値になります。

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