数学第 4 章約 6 分図 3 点

三角比とベクトルの分解

sin・cos・tan を「直角三角形の辺の比」として定義し、物理で最も使う用途である「斜めのベクトルを直交する2方向に分ける」操作に直結させる。斜面の問題と放物運動で必ず使う。

この章の到達目標

  • sin・cos・tan を直角三角形の辺の比として書ける
  • 30°・45°・60° の三角比を、図から復元できる
  • 斜めを向いたベクトルを、指定した2方向の成分に分解できる
  • 斜面上の重力を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分けられる
  • sin と cos のどちらを使うかを、角の位置から判断できる
目次
  1. 直角三角形と三角比
  2. 覚えるべき値は2つの三角形だけ
  3. ベクトルの分解
  4. 斜面上の重力を分解する
  5. 章末問題

物理で三角比を使う場面は、ほぼ1つに集約されます。 斜めを向いた量を、直交する2方向に分けることです。

力・速度・加速度はすべてベクトルで、斜めを向いていると扱いにくい。 そこで縦と横(あるいは斜面に平行と垂直)に分けて、方向ごとに考えます。 この章はその作業に必要な分だけを扱います。

直角三角形と三角比

直角三角形の1つの鋭角を θ\theta とし、辺を次のように呼びます。

  • 斜辺 — 直角の向かい側にある、最も長い辺
  • 対辺 — θ\theta の向かい側の辺
  • 隣辺 — θ\theta に隣接する(斜辺でない)辺
sin⁡θ=対辺斜辺,cos⁡θ=隣辺斜辺,tan⁡θ=対辺隣辺\sin\theta = \frac{\text{対辺}}{\text{斜辺}}, \qquad \cos\theta = \frac{\text{隣辺}}{\text{斜辺}}, \qquad \tan\theta = \frac{\text{対辺}}{\text{隣辺}}
三角比の定義
θ隣辺対辺斜辺
図 1直角三角形と三角比。θ の位置によって、どの辺が対辺・隣辺になるかが変わる。

覚えるべき値は2つの三角形だけ

30°,45°,60°30°,45°,60° の三角比は、次の2つの三角形を描けばその場で読み取れます。 表を暗記する必要はありません。

  • 正方形を対角線で切った三角形 … 辺の比 1:1:21 : 1 : \sqrt{2}(45°45°)
  • 正三角形を高さで切った三角形 … 辺の比 1:3:21 : \sqrt{3} : 2(30°,60°30°, 60°)
11√245°√31230°60°
図 2この2つの三角形を描けば、30°・45°・60° の三角比はすべて読み取れる。

読み取ると

sin⁡30°=12,cos⁡30°=32,tan⁡30°=13\sin 30° = \frac{1}{2}, \quad \cos 30° = \frac{\sqrt{3}}{2}, \quad \tan 30° = \frac{1}{\sqrt{3}} sin⁡45°=cos⁡45°=12,tan⁡45°=1\sin 45° = \cos 45° = \frac{1}{\sqrt{2}}, \quad \tan 45° = 1 sin⁡60°=32,cos⁡60°=12,tan⁡60°=3\sin 60° = \frac{\sqrt{3}}{2}, \quad \cos 60° = \frac{1}{2}, \quad \tan 60° = \sqrt{3}

ベクトルの分解

大きさ FF のベクトルが、xx 軸から角 θ\theta だけ傾いているとします。 このベクトルを xx 方向と yy 方向の成分に分けます。

ベクトルを斜辺とする直角三角形を描くと、xx 成分は θ\theta の隣辺、 yy 成分は対辺です。したがって

Fx=Fcos⁡θ,Fy=Fsin⁡θF_x = F\cos\theta, \qquad F_y = F\sin\theta
ベクトルの成分分解

逆に、成分から大きさと向きに戻すには

F=Fx2+Fy2,tan⁡θ=FyFxF = \sqrt{F_x^2 + F_y^2}, \qquad \tan\theta = \frac{F_y}{F_x}

斜面上の重力を分解する

物理で最も頻繁に現れる分解です。傾き角 θ\theta の斜面に、質量 mm の物体が置かれています。

重力 mgmg は鉛直下向きですが、物体は斜面に沿って動くので、 斜面に平行な成分と垂直な成分に分けたい。

θmgmg cos θ(垂直)mg sin θ(平行)
図 3斜面上の重力の分解。斜面の傾き角 θ が、重力ベクトルと斜面の法線がなす角として再登場する。

図から、重力ベクトルと斜面の法線がなす角が、斜面の傾き θ\theta と等しくなります。 したがって法線方向(斜面に垂直)が隣辺、斜面に平行な方向が対辺で

斜面に平行=mgsin⁡θ,斜面に垂直=mgcos⁡θ\text{斜面に平行} = mg\sin\theta, \qquad \text{斜面に垂直} = mg\cos\theta
斜面上の重力の分解

章末問題

問 1基本三角比の計算

大きさ 20 N20\unit{N} の力が、水平から 60°60° 上向きに傾いている。 この力の水平成分と鉛直成分を求めよ。

解答を見る

角は水平(xx 軸)から測られているので、xx 成分が隣辺で cos⁡\cos、yy 成分が対辺で sin⁡\sin。

Fx=20cos⁡60°=20×12=10 NF_x = 20\cos 60° = 20 \times \frac{1}{2} = 10\unit{N}Fy=20sin⁡60°=20×32=103≈17 NF_y = 20\sin 60° = 20 \times \frac{\sqrt{3}}{2} = 10\sqrt{3} \approx 17\unit{N}

答: 水平成分 10 N10\unit{N}、鉛直成分 約 17 N17\unit{N}。

検算として 102+(103)2=100+300=20 N\sqrt{10^2 + (10\sqrt{3})^2} = \sqrt{100 + 300} = 20\unit{N} で、 元の大きさに戻ります。分解したあと大きさが復元するかを確かめる習慣をつけてください。

問 2標準斜面上の力

傾き角 30°30° のなめらかな斜面上に、質量 2.0 kg2.0\unit{kg} の物体が置かれている。 重力加速度を 9.8 m/s29.8\unit{m/s^2} とする。

(1) 斜面に平行な重力成分の大きさを求めよ。 (2) 斜面から受ける垂直抗力の大きさを求めよ。 (3) 物体の加速度の大きさを求めよ。

解答を見る

重力の大きさは mg=2.0×9.8=19.6 Nmg = 2.0 \times 9.8 = 19.6\unit{N}。

(1) 斜面に平行な成分は mgsin⁡θmg\sin\theta。

19.6×sin⁡30°=19.6×0.50=9.8 N19.6 \times \sin 30° = 19.6 \times 0.50 = 9.8\unit{N}

(2) 斜面に垂直な方向では物体は動かないので、垂直抗力 NN は 重力の垂直成分とつりあいます。

N=mgcos⁡θ=19.6×32≈17 NN = mg\cos\theta = 19.6 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \approx 17\unit{N}

(3) なめらか(摩擦なし)なので、斜面方向の力は mgsin⁡θmg\sin\theta だけ。 運動方程式より

ma=mgsin⁡θ  ⟹  a=gsin⁡θ=9.8×0.50=4.9 m/s2ma = mg\sin\theta \;\Longrightarrow\; a = g\sin\theta = 9.8 \times 0.50 = 4.9\unit{m/s^2}

答: (1) 9.8 N9.8\unit{N}、(2) 約 17 N17\unit{N}、(3) 4.9 m/s24.9\unit{m/s^2}。

(3) で mm が約分されて消えることに注目してください。 なめらかな斜面を滑り降りる加速度は質量によりません。

問 3発展軸の選び方

傾き角 θ\theta の斜面上に物体を置き、斜面に沿って上向きに力 FF を加えて 一定の速さで引き上げている。斜面と物体の間の動摩擦係数を μ\mu とする。

(1) 斜面に平行・垂直に軸をとって、FF を m,g,θ,μm,g,\theta,\mu で表せ。 (2) もし水平・鉛直に軸をとった場合、計算はどう変わるか。 なぜ斜面に沿って軸をとるほうがよいかを説明せよ。

解答を見る

(1) 斜面に平行な方向を xx、垂直な方向を yy にとります。

yy 方向:物体は斜面から離れないので加速度 00。

N−mgcos⁡θ=0  ⟹  N=mgcos⁡θN - mg\cos\theta = 0 \;\Longrightarrow\; N = mg\cos\theta

xx 方向:一定の速さなので加速度 00。上向きに引いているので動摩擦力は斜面下向き。

F−mgsin⁡θ−μN=0F - mg\sin\theta - \mu N = 0

NN を代入して

F=mgsin⁡θ+μmgcos⁡θ=mg(sin⁡θ+μcos⁡θ)F = mg\sin\theta + \mu mg\cos\theta = mg(\sin\theta + \mu\cos\theta)

(2) 水平・鉛直に軸をとると、FF と NN と摩擦力の3つすべてが斜めを向くため、 それぞれを2成分に分解する必要が生じます。式は

Fcos⁡θ−Nsin⁡θ−μNcos⁡θ=0F\cos\theta - N\sin\theta - \mu N\cos\theta = 0Fsin⁡θ+Ncos⁡θ−μNsin⁡θ−mg=0F\sin\theta + N\cos\theta - \mu N \sin\theta - mg = 0

のような連立になり、NN を消去する手間が増えます。答えは同じですが計算量が数倍です。

斜面に沿って軸をとると、分解が必要なベクトルが重力1本だけになります。 FF、NN、摩擦力はすべて軸に平行または垂直なので分解不要です。

軸の選び方の原則は「分解しなければならないベクトルの本数を最小にする」こと。 斜面の問題では斜面に沿って、円運動では動径方向と接線方向に取る。 どちらも同じ考え方です。

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